東郷克美 高橋広満 双文社出版
不思議な味の短編を集めた本である。短編ごとに書いていきたい。
泉鏡花「龍潭譚」古文体の少し読みづらい文章である。幼い子どもが道に迷い、自分の精神にも迷っていく。早くに亡くなった母を追い求め、姉に求める。多くの泉鏡花と小説のモチーフにもなっているようだ。
永井荷風「狐」父が昔水戸屋敷だった土地を買い、家を建てて住む。そこでの生活を描く。藪になっている一角があって、そこに狐が住むらしい。神社の守り神なのかも知れないという女たちの考えと殺してしまえという父。子どもの目からそれらが語られる。
佐藤春夫「西班牙犬の家」犬に連れられて森を散歩するうちに一軒の家を見つける、という話。不思議な出会いがある。
谷崎潤一郎「母を恋ふる記」長い道をたどってさまざまな景色を見ながら、最後に女にである。姉と呼んでもいいかというと、お前の母だという。どの短編も作者のその後の物語に影響を与えているような話である。
梶井基次郎「Kの昇天」梶井基次郎は学生時代にけっこう読んだがあまり記憶にない。これも初めて読んだような感じ。
夢野久作「瓶詰の地獄」夢野久作には地獄と題した小説が多いように思う。この小説も孤島に流れ着いた少年とその妹の話。3つの瓶に入った書面で物語が語られる。
江戸川乱歩「押絵と旅する男」けっこう有名な短編だが読んだことはなかった。面白く読めた。
太宰治「魚服記」これも初めて読んだ。太宰とは思えない雰囲気。
岡本かの子「川」初めて読む。
井伏鱒二「へんろう宿」比較的最近読んだ記憶がある。
井上靖「補陀落渡海記」これは学生の頃読んだ。家内と補陀洛寺にも行った記憶がある。