木ノ内博道の雑読ノート

読んだ本の備忘録です。

2021-01-01から1年間の記事一覧

『なぎさ』

山本文緒 角川書店 これも山本さんの長編。登場人物たちの文章で物語が進んでいく。 ごたごたとした生活と男と女、あるいは男と女のごたごたした世界が語られていく。 引きづった、重いものが徐々に明かされていく。

『自転しながら公転する』

山本文緒 新潮社 短編も多い山本文緒さんの小説のなかでは長編と言える。東京で働いていた32歳の女性。親の看病のために実家に戻って近所のモールで働き始める。さまざまなことが起こるが、小説というのは少し触れただけでもこれから読む人の気持ちを半減さ…

『プラナリア』

山本文緒 文春文庫 山本さんは10月に亡くなったという。読んでみたいと思っていたので、あまりいいことではないがこれを契機に読んでみようと思い立った。 5篇の小説が入っていて、全体として直木賞を受賞している。 いずれも元気の出る小説ではない。話も明…

『海が見える家 逆風』

はらだみずき 小学館文庫 「海が見える」の3冊目。舞台が南房総で、千葉に住んでいる私としては思わず読んでしまう。 3冊目では、一昨年の台風の被害が書かれている。当時私も行ったが、ブルーシートのかかった家が多かった。イノシシなどが人家の近くまでや…

『葉桜の季節に君を想うということ』

歌野晶午 文春文庫 ミステリー小説。面白く読めるが、終盤でものごとが一気に解決していくミステリー特有の終わり方がどうも気に食わない。

『ビタミンF』

重松清 新潮文庫 7篇の短編で構成されている。 どの短編も40歳前後の男性が主人公。 家族を持ち、子どもが思春期を迎えるような時期。社会的な逸脱行為をしたりして主人公を悩ませる。しかし、ちょっとした人生の振り返りも行うことになる。どうやら著者は…

『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』

大島真寿美 文春文庫 直木賞&高校生直木賞を受賞したという帯に魅せられて買ってしまったが、どうしてどうして面白い読み物で、感心しながらあっという間に読み切ってしまった。 父が近松門左衛門から譲り受けたという硯をもらい受けて、名前も近松門左衛門…

『妊娠・出産をめぐるスピリテュアリティ』

橋迫瑞穂 集英社新書 子どもは授かる、とか表現する。 どこかからやってくるという認識なのだろう。 その分野のスピリチュアルについてまとめたもの。

『アルバイトの誕生』

岩田弘三 平凡社新書 久しぶりに実学的な本。実は私は学生援護会にながく働いていて、この本に出てくる『アルバイト白書』の編集などもやった。いつかアルバイトについての本を書きたいと思っていたので、先を越された感じ。ただ、ここはもっと深掘りをして…

『はるか』

宿野かほる 新潮文庫 プロフィールを一切明かしていない宿野かほるのこれが2冊目。 AIを使って亡くなった恋人を再現する話。1作目の方がどきどき感があったなあ。

『ルビンの壺が割れた』

宿野かほる 新潮文庫 著者名、初めて聞く名前だが、公にしていないみたい。 男の人と女の人のメールのやり取りで構成されている。 昔恋人だった2人のやり取りだと思って読み進むうち、大きなどんでん返し。 面白く読んだ。 ルビンの壺は、見方によって違って…

『姫君を喰う話』

宇能鴻一郎、新潮文庫 宇能といえばポルノ小説で有名だが、そうなる前の短編を集めたもので、芥川賞をとった「鯨神」も収録されている。 しかし性の匂いは色濃い。面白く読んだ。 読んだ本は姉に送っているのだが、この本は少し躊躇する。

『狐笛のかなた』

上橋菜穂子 新潮文庫 上橋といえば守り人シリーズが売れているが。 先に読んだアボリジニから、まだ読んでいないファンタジーものを読んでみたくなった。で手に取ったのがこの本。

『隣のアボリジニ』

上橋菜穂子 ちくま文庫 読みたいと思いながら、上橋さんの本を手に取ることはなかった。 アボリジニについて書いているというので読んでみた。実は、二十年ほど前、デジュリドゥの仲間でオーストラリアのアーネムランドに行ったことがある。アボリジニに習お…

『最後の読書』

津野海太郎、新潮文庫 老いと読書について書かれた本。加齢とともに読書の醍醐味もあるが、一方で、読めなくなってくる年齢もある。集中力もなくなってくる。 80を迎える津野氏の作家との交友など、私と重なるところもあった。

『三体』

劉慈欣 早川書房 三部作の1部。中国の現代SF小説。地球外生命とコンタクトを取り始めたところ。 そして小説の始まりは文化大革命。とんでもないものを読み始めてしまった。 すでにⅡの上下を買ってきた。これから読み始める。

『ノーラ・ウェブスター』

コルム・トビーン著、新潮クレスト・ブックス 夫を亡くした妻が3年をかけ立ち直っていく物語。コルム・トビーンはアイルランドの作家。 子どもたちの養育、金銭問題、働きに出る、趣味上の問題などさまざまな出来事のなかでしっかりと生きていく女性が描かれ…

『菓子屋横丁月光荘 歌う家』

ほしおさなえ 角川春樹事務所 ハルキ文庫 菓子屋横丁シリーズが出ている。これはその1冊目。古い家と話の出来る主人公。川越が舞台。

『心(うら)淋し川』

西條奈加 集英社 江戸の片隅、どぶ川沿いに懸命に生きる人々の悲しみや喜び。8編の短編で楽しめる。

『恩寵』

ほしおさなえ 角川書店 会社を辞めて東京近郊の古い建物に住む。そこでの生活となるとだいたいイメージできる。ところが予想を超えて、登場人物の多いこと。現在だけでなく、過去の出来事ともいろいろかかわる。結果として、いい小説だった。読んでよかった。

『アテルイを継ぐ男 水壁』

髙橋克彦 PHP研究所 蝦夷と中央政権の軋轢は高橋克彦のテーマでもあって、これまでに『火怨』『炎立つ』などを読んできた。『水壁』はこうしたテーマの本の最後にあたるらしい。元慶の乱をもとにしているらしい。

『彼岸花が咲く島』

李琴峰 文芸春秋 最新の芥川賞受賞作品。与那国がモデルのような島。女語が使われていて、女がいろいろなことを仕切っている。不思議な味の小説で、台湾の女性が書いた。

『そうか、もう君はいないのか』

城山三郎 新潮文庫 妻の思い出を綴る。亡くなってから、出会いや旅を思い出す。城山三郎の、経済小説とは異なる私的な交情がいい。

『夏の口紅』

樋口有介 文春文庫 大学3年の主人公のもとに、15年前に家を出た父が死んだと連絡があり、形見を受け取りに本郷の古い家に行く。そこで会う季里子は口数が少ない不思議な女性。また、主人公には姉の存在が知らされる。 夏休みの10日間に経験する恋愛を描いた…

『図書館の神様』

瀬尾まいこ ちくま文庫 バレーボールに熱中していた主人公の女性が、新入部員にクレームをつけて、その子が自殺する。それでバレーをやめて、先生になる。非常勤の。興味もない図書委員の顧問になる。部員は一人だけ。私生活の話も出てくる。 不思議な味の小…

『ボロ家の春秋』

梅崎春生 中公文庫 戦後間もなくの日常が描かれている。梅崎は昔も読んだのだったか。たしか椎名麟三の家に行く途中に梅崎の家があって、ついでに原稿とりに編集者が寄ったとか読んだことがある。 いざこざというか、話題はあらぬ方向に流れていく。思っても…

『ソーネチカ』

リュッドミラ・ウリツカヤ 沼野恭子訳 新潮社 本の虫で容貌のパッとしないソーネチカの一生。不思議な感性の持ち主で、裏切られたり失望させられたりしても「なんて幸せなんだろう」と思う。作者はどうしてこんな人物を描いたのだろうと考えずにはいられない…

『黙祷の時間』

ジークフリート・レンツ 松永美穂訳 新潮社 ギムナジウムで開かれた追悼式で、遺影を見つめる少年がひと夏の出来事を思い出す。思春期の少年が美しい女の先生に憧れる。レンツ82歳で書いた高校生の恋。みずみずしい内容に驚く。

『オルガ』

ベルンハルト・シュリンク、松永美穂訳、新潮社 19世紀末から21世紀までを駆け抜ける小説と言っていい。主人公のオルガは幼くして両親を亡くし、ドイツ帝国の村で祖母に育てられる。祖母の反対を押し切って女子師範学校に進む。オルガとこの地方の農場主の息…

『人質の朗読会』

小川洋子 中公文庫 ツアーの参加者と添乗員などが反政府ゲリラから襲撃を受け拘束された。2か月を過ぎても膠着状態が続き、100日が過ぎようとするときに軍が強行突破し銃撃戦になり、全員が死亡した。文章や盗聴器が発見されて、「人質による朗読会」が行わ…