木ノ内博道の雑読ノート

読んだ本の備忘録です。

2021-01-01から1年間の記事一覧

『教科書に載った小説』

佐藤雅彦編、ポプラ社 佐藤さんが推薦した小説12編が載っている。類書が文庫本などで出ているが、この12編のよさは、あまり代表的な本でないことだろう。有名な著者であっても、ああこんなことを書いていたんだ、と知れるところが面白い。 絵本を子どもに読…

『ある一生』

ローベルト・ゼーターラー 浅井晶子訳 新潮社 20世紀の始まりから終わりまでのある男の一代記。誰に知られることもない人生だが、厳しい時代を生き抜く物語が読む者の胸を打つ。 男は未婚の母親から生まれた私生児。母を亡くしたため親戚の農家に引き取られ…

『しずかな日々』

椰月美智子 講談社文庫 小学5年生の男の子が主人公。父親はいなくて、母親が新しい仕事を始めるにあたっておじいちゃんのもとで暮らし始める。友達付き合いも苦手だが、友人に恵まれて楽しい時期を送る。そのことが語られる。とくに深刻な話もなく、日々の暮…

『終わりの感覚』

ジュリアン・バーンズ 土屋政雄訳 新潮社 歳取ってきて、青春を思い出す、という話。勘違いしていることも多い。 筋立ては、よく読んでみても分かりづらい。

『隠居すごろく』

西條奈加、角川書店 この本、3年くらい前にも読んだ。書評を書くので読み直してみた。 隠居した爺さんが孫の影響で変わっていくもの。

『時のかさなり』

ナンシー・ヒューストン 横川晶子訳 新潮社 ナチス統制下のドイツから、カナダ、イスラエル、アメリカへの4代にわたる物語。いずれも6歳の子どもの視点で書かれている。書かれ方はアメリカ、イスラエル、カナダ、ドイツへの時間の流れは逆。 ナチス統制下の…

『サラの鍵』

タチアナ・ド・ロネ、高見浩訳、新潮クレスト・ブックス フランスにもかかわらずドイツ・ナチスに協力してユダヤ人たちが収容所に行く。10歳のサラは連行されるのに、とっさに弟を納戸に隠して鍵を閉めた。 サラは収容所を逃走して生き残る。その話がベース…

『シェル・コレクター』

アンソニー・ドーア 岩本正恵訳 新潮社 ドーアの処女短編集。8編が収録されているが、『貝を集める人』『ハンターの妻』『世話係』『ムコンド』がよかった。 語りの文章だが、必ずしもきちんとしたストーリーというより、脱線などもあって、それがいい。

『すべての見えない光』

アンソニー・ドーア 藤井光訳 新潮社 長編である。しかし盲目の少女と兵士の物語はそれぞれの短い話で語られているので長さは感じられずに読める。 それにしても、戦争中の命の物語はすさまじい。読書の楽しさを味わわせてくれる1冊である。

『ナーダという名の少女』

角野栄子 角川書店 ブラジルが舞台。日本人男性の父をもつ少女が主人公。15歳。 ナーダは幽霊。角野さんは幽霊を話題にするのが好きみたい。主人公、年齢的に興味をもつ時代なのかも知れない。なんと主人公の少女とナーダは双子。種明かしになってしまうが、…

『ラスト ラン』

角野栄子、角川書店 『魔女の宅急便』の著者が書いた、自伝的小説と言える。 74歳のイコさんはバイクツーリングにでかける。目的地は5歳で死別した母の生家。手掛かりは、母が12歳のときの写真。たどり着いたその家には不思議な少女が住んでいた。少女は幽霊…

『蜩ノ記』

葉室麟 祥伝社 読みたいと思っていた本だが、とくに急ぎ読む本でもないと思っていた。ブックオフで200円で出ていたので、求めた。 武士の倫理を生きながら、死んでいく世界が描かれる。うまい小説だな、と思わせる。 いま、テレビで渋沢栄一の『論語と算盤』…

『エトルリアの微笑み』

ホセ・ルイス・サンペドロ著、NHK出版 老人が主人公。ガンで残された命はわずか。生まれ故郷に別れを告げて、息子夫婦の住むミラノに旅立つ。移動の途中、ローマの博物館でエトルリアの遺物「夫婦の棺」が老人の心をとらえる。棺だというのに夫婦は幸せそう…

『うつくしい繭』

櫻木みわ 講談社 東ティモール、ラオス、南インド、西南諸島を舞台にした4つの短編。 東ティモールの少女は死者の声を聞くことができる。 ラオスの山奥では、親友と婚約者に裏切られた女性。 南インドに、兄のためにがんの新薬を探しに来た女性。 日本、西南…

『ヒストリア』

池上永一、角川書店。 第二次世界大戦の沖縄戦を奇跡的に生き延びた少女が、ボリビアに移住する。沖縄戦での生き延び方もリアリティがあるが、ボリビアを中心にラテンアメリカを駆け巡る主人公の動きも緻密に書かれている。 単行本で629ページ。分厚い本だが…

『海神の島』

池上永一、中央公論新社 3人の姉妹が沖縄の秘宝を探す小説。 米軍基地内にある海神の墓を守ってほしいという祖母の願いに、それぞれ個性派ぞろいの姉妹がチャレンジする。 この小説の魅力は、話題のユニークさにあるだろうか。それぞれのシーンに見合った意…

『奇妙な仕事』『死者の奢り』

大江健三郎全小説1、講談社 大江健三郎が学生時代に書いた2つの小説ともアルバイトについての小説だ。『奇妙な仕事』では150匹の犬を殺すためにアルバイトを始める。『死者の奢り』では大学病院の死体保存のプールでのアルバイト。

『灯台からの響き』

宮本輝、集英社 中華そば屋の康平が主人公。奥さんが店で倒れて亡くなる。その後本の中から奥さん宛にきたハガキが出てくる。関係のない人からのハガキだと言っていたがどういう関係か、たどり始める。 結婚前の奥さんの意外な秘め事が明るみに出る。決して…

『雲上雲下』

朝井まかて、徳間文庫 朝井まかてはこれまでに『恋歌』を読んだことがある。 『雲上雲下』は民話をネタに書いた小説。山の樫の洞をぬけた後に広がる世界で、草が話をする。

『ふがいない僕は空を見た』

窪美澄著、新潮社 エロティックな文章が多く、最初の方はあきれて読んだが、全体を通しては割合気持ちよく読めた。 こうした愚かさも含めて、人間は人間なのだろうと感じた。

『重き流れの中に』

椎名麟三、新潮文庫。 「深夜の酒宴」「重き流れの中に」「深尾正治の手記」の3篇が入っている。 これも学生の頃に読んだことがある。それを思いだして今回読んでみたが、当時の感動はなかった。ただ、ドストエフスキーの影響とみられる感じはユニーク。風景…

『熱い風』

小池真理子。集英社 熱い恋のなか婚約者が突然亡くなる。彼を思いだしながらのパリ、ブリュッセル、アムステルダムへの旅。恋のなか彼に疑念はあったのだろうかと考えながら旅は続く。

『風立ちぬ・美しい村』

堀辰雄、岩波文庫 若い時に2度ほど読んだ記憶があるが、内容を覚えていない。 再度読んでみて、とくに「風立ちぬ」がよかった。 死がモチーフになっているが、粗暴なイメージではなく、友人であるような描き方がいい。

『異人たちとの夏』

山田太一、新潮社 妻子と別れて、仕事場にしていたマンションに住んでいる主人公に起こった不思議なお話。面白かった。

『海が見える家 それから』

はらだみずき、小学館文庫 『海が見える家』を読んで、この世界を続きで読みたいと購入。海岸での暮らしを先に読んでいるので、楽しく読むことができた。 『海が見える家』では、会社勤めを始めてすぐに辞めて、父の死亡後の後片付けに別荘を訪問する経緯な…

『神保町「ガロ編集室」界隈』

高野慎三、ちくま書房 漫画雑誌「ガロ」の創刊時の時代背景や「ガロ」に集まった人たちなどのことが書かれている。私の青春時代の前の人たちの動き。貸本屋のことなども出てくる。 私の学生時代には、「ガロ」は古書店で見つけて読んだものだ。

『はじめての文学 浅田次郎』

浅田次郎、文芸春秋 本書は、初めて出会う文芸として5つの短編が、浅田次郎の自選アンソロジーとして組まれている。「ふくちゃんのジャック・ナイフ」「かくれんぼ」「夕暮れ隧道」「̪シエ」「立花新兵衛只今罷越候」。浅田次郎は数えるほどしか読んでいない…

『森に眠る魚』

角田光代、双葉文庫。 東京の文教地区で出会った5人の母親の話。 育児を通して出会いながら、小学校受験などによって離れていく。

『祈り』

伊岡瞬、文春文庫

『山中静夫氏の尊厳死』

南木佳士、文春文庫 肺がんの山中静夫氏の尊厳死を見守る医師の物語である。 『試みの堕落論』と一緒になっている。