木ノ内博道の雑読ノート

読んだ本の備忘録です。

2024-01-01から1年間の記事一覧

『恍惚の人』

有吉佐和子 新潮文庫 昭和57年の発行である。老人問題の先駆といえる。 祖母が自宅で亡くなっていて、その頃から祖父の様子がおかしい。 胃腸の弱かったはずがよく食べる。徘徊をする。徐々に体が弱っていくが、怒りんぼだった祖父が笑うようになる。人間が…

『風の盆恋歌』

髙橋治 新潮文庫 不倫の恋の話である。風の盆の祭りを描きながら美しい仕上がりの小説である。この内容そのものがが石川さゆりの歌にある。 若いころに出会い、年を経た今、物語は動き出す。死をかけて。

『アルプスの少女』

ヨハンナ・スピリ 講談社 少年少女世界文学館の16に入っている。他の本だと『アルプスの少女ハイジ』などの題名で出ているものもある。 1800年代末の作品ながら古さを感じさせない。キリスト教が色濃く影を落としていて、それが貧富の差につながったり、人生…

『完訳 日本奥地紀行3 北海道 アイヌの世界』

イザベラ・バード 平凡社 昔、東北編は読んだことがあるが、北海道篇については読んだことがなかった。 友人と話していて、なぜ読む人が少ないのだろうか、北海道篇はマイナーなんだろうか、ひょっとしてアイヌを差別的に書いているのではないか、と話したの…

『悪女について』

有吉佐和子 新潮文庫 美貌の女実業家が登場するわけではない。27人の周辺の人たちに聞く形で物語は始まる。しかも死んだというところから始まり、女の生きざまがいろいろに語られる。

『開幕ベルは華やかに』

有吉佐和子 文春文庫 演劇界の裏話などが書かれており、事件が起きる。面白かった。

『神様の暇つぶし』

千早茜 文芸春秋 たまたま図書館で借りてきた。 死んだ父親の友人であるカメラマンと恋に落ちる。主人公は大学生。交友関係も出てきて、やや立体的な構成になっている。情交後の肢体がカメラでとらえられ、写真本となる。

『よろこびの歌』

宮下奈都 実業之日本社 久しぶりに宮下の小説を読んだ。文章が読みやすく内容もいい。 声楽を志す女の子が音大付属高校の受験に失敗するところから物語は始まる。新設高校の普通科に入学して、挫折感を味わう。そこからの変化が主人公の女の子の自立へとつな…

『しろがねの葉』

千早茜 新潮社 従来と小説のトーンが異なりびっくり。戦国末期の石見銀山が舞台。少女が銀山で働きながら生活の場としていく。欲望と死の影響を受けて生き抜いていく。ずっと候補だったが、この作品で直木賞受賞。

『青い壺』

有吉佐和子 文春文庫 無名の陶芸家が焼いた青磁の壺がいろいろな人のところを巡る話。 そして長旅をした壺は陶芸家のところにもどってくる。

『へんろ宿』

藤原緋沙子 新潮文庫 江戸回向院前の安宿に集うわけありの旅人たち。旅人からの訳ありの相談にのりながら元気をもらいながら帰っていく。こういう宿があったら、と思う。

『男ともだち』

千早茜 文芸春秋 これも直木賞候補だという。 イラストレーターの女性が主人公。恋人でもない男友達やつきあう男たち、同棲から別れていく男。さまざまな人間関係が描かれる。もちろん同性の友達についても。 前に読んだ同じ作者の『あとかた』にはあまりい…

『あとかた』

千早茜 新潮社 直木賞候補作 島清恋愛文学賞受賞作というのでどんな小説かと思い読んでみた。 若い男と女の自由な交流。セックスありセックスなし。死もある。自由ではあるがそれを自由というのか。よく分からない人間の交流。若い時というのはこうだろうな…

『この世にたやすい仕事はない』

津村記久子 新潮文庫 ストレスに耐えかねた前職をやめて、単純そうな仕事に就く。が、どの仕事もそれなりに難しい。 個人的には退屈した読書。

『ポトスライムの舟』

津村記久子 講談社文庫 私は人の名前を記憶するのは苦手だ。この小説も始めに登場人物の名前が漢字で書かれるが、あとはローマ字。他の登場人物もローマ字で、男性か女性かも分かりづらい。あえて他の姓で語られるようなところもある。分かりにくさのなかに…

『君は永遠にそいつらより若い』

津村記久子 ちくま文庫 大学卒業をまじかに控え、就職も決まって、手持無沙汰の日々。ぐだぐだとした日常が描かれる。ところが、何もないように見える日常の裏に暴力や哀しみが顔を見せる。 描き方がうまいなあと思わずにはいられない。

『水車小屋のネネ』

津村記久子 毎日新聞出版 家を出ようと思うんだけど一緒に来る?という問いかけから始まる、18歳の女性と8歳の女の子。母子家庭だったが、男性が来るようになり虐待が始まる。お母さんはそれを止めようとしない。 そこから始まる物語。しかし、暗い話にはな…

『絡繰り心中』

永井紗耶子 小学館文庫 『木挽町のあだ討ち』がよかったので本書を読んだ。 これもストーリーが読者になかなか想像できず、意外性を呼ぶ。 世を儚んだ女郎の持ち掛け心中だが、そこに人間関係が絡んでくる。 なぜ一人だけで女は殺されることになるのか。