木ノ内博道の雑読ノート

読んだ本の備忘録です。

2022-01-01から1年間の記事一覧

『定価のない本』

門井慶喜 創元推理文庫 古本業界の話と言えば、梶山季之の『せどり男爵数奇譚』が面白かった。 この本は戦後まもなく、GHQとの関係で古い本が売れる話だが、それなりに読ませてくれた。しかし、同業者の死をめぐって、かなり強引な筋になっていて、もう少し…

『遣灯使』

多和田葉子 講談社文庫 表題以外に「韋駄天どこまでも」「不死の島」「彼岸」「動物たちのバベル」が収録されている。 従来の語りとは異なる手法の小説と言っていい。

『ベルリンは晴れているか』

深緑野分 筑摩書房 ドイツ、ヒットラー時代の第二次世界大戦前夜から戦争直後まで、一人の女性の生きざまが描かれている。 戦後と戦前が章ごとに書かれていて、最終的にはそれがまとまる形になっている。戦後の部分はずいぶん強引な出会いと筋書きだなと思っ…

『悦楽の園』

木地雅映子 ジャイブ㈱ 発達障害の少年を好きになってしまう女の子の話。引用部分のご紹介。 若干知恵遅れとも思われる少年が女性に質問する。「オレ、ずーっと、いるから、うまれてくると、思って⋯ちゃんと、おとうさんとおかあさんとで、ほ、ほしいって思…

『ボッティチェッリの裏庭』

梶村啓二 筑摩書房 『野いばら』『使者と果物』がよかったので読んでみたが、この2冊のような感じではなかった。 もちろん、ストーリーの運びなどよく調べて書いているとは思う。ただ、先の2冊のようなわくわく感がなかった。

『使者と果実』

梶村啓二 日本経済新聞出版社 『野いばら』がよかった。で、次に書かれた『使者と果実』を読んだ。よいできの小説を読んだという実感がこみあげている。 満州でスタートして、ドイツに行き、ブエノスアイレスに。それが出会ったおじいさんの語りとなって小説…

『惑星の岸辺』

梶村啓二 講談社 『野いばら』の読後感がよかったので、同じ作家の『惑星の岸辺』を読んでみた。この作家ならではの文章が素晴らしい。 しかしSF仕立てのようなストーリーが邪魔をして、『野いばら』のように気持ちが引き込まれていくことはなかった。 約60…

『霜天の虹』

北原耕也 本の泉社 七戸、満州。国と民族を超えた物語。 いい本だった。 父殺し。しかし展開は意外の方向にいく。

『人間の幸福』

宮本輝 幻冬舎 一人の女性が撲殺される。犯人をめぐるマンション住まいの人々の人間模様。 よく考えられて書いてあるが、感銘を受けるような内容ではなかった。

『ひと夜の月』

石神聰 東洋出版株式会社 亡くなった妻に会う旅についての物語である。それも旅に出た先は霊界ともいえる所。さまざまな出会いのなかで、妻に出会うだけではない物語が始まる。

『百花』

河村元気 文春文庫 妻が妊娠して、一方母親は記憶を失っていく。 単身で子どもを産み、育ててくれた母親を思い出しながら。母親は施設にはいる。子どもが生まれる。記憶を失っていくのはどういうことなんだろう、そのテーマに向き合っていく小説。

『野いばら』

梶村啓二 日本経済新聞出版社 最後まで読んでも既観感が残る。以前に読んだ感じがするのだ。 しかしストーリーさえ記憶にはなく、新しい書物として読むことができた。 文章がよく、寡作ではもったいない気がする。 江戸末期、イギリスの男性がやって来、日本…

『真夜中の子供』

辻仁成 河出書房新社 福岡、中洲で生まれ育った無戸籍少年の物語だ。 巨大な歓楽街で、大人たちはいるが、子どもはいないといっていい。 そうしたところで暮らし、さまざまな体験をしていく。 児相も出てくるが、そんなには出てこない。 ある警察官が助けよ…

『嘘の木』

フランシス・ハーディング 東京創元社 「19世紀、ダーウィンの進化論に揺れる英国で、高名な博物学者が不正を疑われ、スキャンダルから逃れるために移り住んだ島で謎の死を遂げます。学者の娘は、敬愛する父の汚名をそそぐべく、真実をつきとめようと立ちあ…

『クジラアタマの王様』

伊坂幸太郎 新潮文庫 夢と現実との関係がストーリーになっている。 近年のゲームを取り入れているとのことだが、今一つ分かりにくい。 少し古い本にも関わらずコロナや安倍元首相の暗殺っぽい話も出てくる。 面白くは読んだが感動するような感じの本ではない…

『鳩護』

河﨑秋子 徳間書店 河﨑さんの本はこれですべて読んだ。小森椿、27歳、会社員が謎の使命を背負わされる。不思議なストーリーだが、うまくのれなかった。これまではすべていい本だったのだが。

『ひと』

小野寺史宣 祥伝社文庫 「両親を亡くして大学をやめた20歳の秋。見えなくなった未来に光が射したのは、コロッケを一個譲った時だったと帯に書いてある。金持でいい大学で学ぶ人の言動も紹介されていて、生きていくうえでの大事な心情も書かれているが、河﨑…

『土に贖う』

河﨑秋子 集英社 短編集である。7つの小説が載っている。 北海道に題材をとった小説で、短編とは言えしっかり読める。 通常は読み初めにはなかなか小説世界に入っていけないものだが、いずれもすんなり入っていける。長編も同じで、河﨑さんの小説の特徴と言…

『締め殺しの樹』

河﨑秋子 小学館 このところ、河﨑秋子に凝っている。 『締め殺しの樹』は長編だが、しっかり読みごたえはあった。 薄幸の女性の一代記かと思っていたら、その後も話は続いていく。北海道、根室で多難な人生を送る女性。北海道に住む河﨑氏だから書けた、と…

『颶風の王』

河﨑秋子 角川文庫 この作で三浦綾子文学賞を受賞している。 馬と女性をめぐる明治から現代までの物語。 捨造が東北から北海道に移民することで始まるわけだから、女性というよりも家族の物語といえる。

『肉弾』

河﨑秋子 KADOKAWA 先に読んだ『鯨の岬』のよさに惹かれて、同じ作家の『肉弾』を読んだ。 ひとつの傾向というのではなく、全く違ったと言っていいだろう。獣の領域に踏み込んでいく父と息子の物語。獣との闘いなど、描写力もありすごいと思うが、場面に迫力…

『檸檬の棘』

黒木渚 講談社文庫 絶縁して10年になるのにまだ父のことを許せていない。 中学生から寮に入り家族と別居。両親は離婚。 大腸がんで亡くなる父とのことを中心に小説は進む。 が今一つ乗り切れなかった小説だった。

『鯨の岬』

河崎秋子 集英社文庫 『鯨の岬』とともに、北海道での時代劇ともいえる『東阪遺事』が収録されている。 文章も構成もしっかりしている。2作を読んで、著者の才能の確かさを感じた。 ぜひ他のものも読んでみたいと思った。

『自己肯定感ハラスメント』

辻秀一 フォレスト出版 スポーツドクターとして活躍する著者。これは近著。新書である。 成功などによって自己肯定感を高めることではなくて、自己存在感を自覚していくことが大事だという。育児などでも大事なことだと思う。

『どうにもとまらない歌謡曲――70年代のジェンダー』

舌津智之 ちくま文庫 まだ文庫になったばかり。 タイトルどおり、70年代の歌謡曲を歌詞の面からジェンダー的に解釈し、取り上げたもの。歴史的に分析するような本は多いのだが、歌詞に焦点を当てる本は少ないのではないか。 面白かった。舌津さんの文章が分…

『パイロットの妻』

アニータ・シューリーヴ 新潮社 深夜に男が訪ねてくる。夫の死が伝えられる。大きな衝撃を受ける。 そうして小説がはじまるが、ストーリーを話すことは難しい。墜落の原因が、機長が飛行機を爆破させたという報道。しかし妻はその報道が信じられない。 けっ…

『ぼぎわんが来る』

澤村伊智 角川書店 第22回日本ホラー小説大賞を受賞している。ホラーを好んで読むことはないのだが、読む羽目になってしまった。面白いと言えば言える。 後半より始めの方がゾクゾクとくる。

『かか』

宇佐見りん 河出文庫 語り手の女の子は19歳。弟への語りではあるが母の使っていた幼児語で話す。 母と一体になった感情が文体にマッチしている。 『推し、燃ゆ』が売れているが、『かか』は宇佐見りんの処女作だという。

『青が散る』

宮本輝 文芸春秋 大学生のテニスに明け暮れる日常を描いたもの。 友人との出会いや恋愛など、生き生きと描かれている。 いい本と出会ったと思っている。

『峠うどん物語』上下

重松清 講談社 長寿庵という店名を峠うどんと改名する。近所に斎場ができて、客がそこから来る人ばかりになったからだ。 話は、死にまつわるものが多くなるのは当然のことだ。上に5話、下にも5話あるその話がいい。