木ノ内博道の雑読ノート

読んだ本の備忘録です。

2020-01-01から1年間の記事一覧

『小川洋子と読む内田百閒アンソロジー』

内田百閒 小川洋子編 ちくま文庫 内田百閒には縁を感じる。全集もあり、生原稿も手元にある。 全集を読むには気力がいるが、文庫でアンソロジーを読んでみたくなって買った。 やはりいい。膨大な随筆もあるが、短編のよさは百閒ならでは。 このアンソロジー…

『植物はなぜ動かないのか』

稲垣栄洋著、ちくまプリマー新書。 タイトルにあまり魅力を感じなかったが、古生代からの進化を見ていくうち、恐竜や昆虫、哺乳類などとどう付き合ってきたのか、裸子植物、被子植物の戦略の違いなど、目を開かされる思いだった。子どもの頃読んでいたら、と…

『一九七二』

坪内祐三、文春学芸ライブラリー 私が大学を除籍になって、それまでやっていた馬券売り場のアルバイトもインフルエンザで出走停止になった。重い腰を上げて就職したのがこの年。ということで思い入れもひときわある。 考えてみれば、多くの出来事があった。…

『蝦夷太平記 十三の海鳴り』

安倍龍太郎著、集英社。 蝦夷に関する小説はなぜか読んでしまう。これまでも高橋克彦の『炎立つ』や『火怨』を読んだ。 鎌倉時代の末期に起こった安藤氏の乱に題材をとり、北方交易、アイヌ、蝦夷。奥州津軽を舞台に描かれる。北条得宗家を窮地に追い込み鎌…

『日没』

桐野夏生の近刊。岩波書店 桐野夏生は一時期読みふけったことがあるが、久しぶりに読んだ。 戯画化された物語ではあるがこわいし、現実にないかと言えばこの日常にひたひたと押し寄せている感じもする。 安倍前首相のしらを切る発言だったり、用語の使い方だ…

『海をあげる』

上間陽子さんの初エッセー集。筑摩書房 上間さんと言えば『裸足で逃げる』が話題になった。子育てをする少女たちを取材。厳しい現実が浮き彫りになった。 『海をあげる』は徹底した取材、というのではなく、日常から見えてくるものを救い上げる。沖縄の暮ら…

『百年法』(上下巻)

山田宗樹、角川書店。 上下巻で900ページにもなる長編である。 百年法は生存制限法の通称名。ウイルスによる不老化処置を受けた国民は処置後百年をもって生存権をはじめとする基本的人権をすべて放棄しなければならない。受け入れる者がいるが抗うものも…

『あらしのよるに』

きむらゆういち著、小学館。 ヤギと狼が嵐の夜に出会って、友達になる話。子どもに読んで聞かせるとハラハラドキドキするだろう。ヤギはヤギ社会から、狼は狼社会から浮き上がってしまう。その後ストーリーはどう展開するか、読んでのお楽しみ。 気になった…

『遠い朝の本たち』

須賀敦子。筑摩書房。 子どもの頃に出会った本を語っていく。 アン・リンドバーグの言葉。「さようなら、とこの国の人々が別れにさいして口にのぼせる言葉は、もともと「そうならねばならぬのなら」という意味だとそのとき私は教えられた。「そうならねばな…

『宇宙でいちばんあかるい屋根』

野中ともそ著、光文社文庫。 14歳の少女が主人公。人に勧められた本だったが、それなりにいい。魔法使いのおばあさんとの交流。ほのぼのとあたたかい。

『生の裏面』(李承雨著)

『真夏の視線』に続いて『生の裏面』を読む。 同じく父性不在が大きく影を落としている。 小説の主人公は、自らの体験として書くのが困難なのか、他の作家の作品論として書き始めるが、他の作家(パク・プギル)はなかなか語ってくれず、未発表の作品の紹介…

『真夏の視線』(李承雨著)

李承雨(イ・スンウ)の『真夏の視線』を読む。韓国の現代文学を読むのは初めて。水準の高さに驚く。 イ・スンウとの出会いは、1か月前に『植物たちの私生活』を読んだことによる。次いで『香港パク』を読んだ。だからこれで3冊目ということになる。手元に『…