木ノ内博道の雑読ノート

読んだ本の備忘録です。

『真夏の視線』(李承雨著)

李承雨(イ・スンウ)の『真夏の視線』を読む。韓国の現代文学を読むのは初めて。水準の高さに驚く。

イ・スンウとの出会いは、1か月前に『植物たちの私生活』を読んだことによる。次いで『香港パク』を読んだ。だからこれで3冊目ということになる。手元に『生の裏面』があってこれから読もうと思っているから、このところイ・スンウにのめり込んでいるといっていい。

『真夏の視線』は父親探しの小説。と言っても父親不在の主人公の内面の旅という感じ。イ・スンウの独特の世界を堪能した。

バッタの腹にハリガネムシが宿る。ハリガネムシはバッタに命じて水辺へと誘う。不思議な話だが、私も最近知ったばかりの話である。バッタはハリガネムシに命じられていることをもちろん知らない。主人公は何者に命じられて父親探しを始めるのだろうか。

選挙中の父親に会うことになるが、父親の反対陣営に利用されることになる。はたして父親には会えたのだろうか。「考えるということはその問いを価値のある問いとして受容することで、それについて答えようと試みていることだ」(107P)とある。このように思索、自問の小説である。