木ノ内博道の雑読ノート

読んだ本の備忘録です。

2023-01-01から1年間の記事一覧

『ラブカは静かに弓を持つ』

安檀美緒 集英社 上司の命令で音楽教室に潜入調査。チェロの講師との出会い。生徒仲間との交流。 信頼がテーマかなと思ってしまう。 私も尺八を習って、かれこれ10数年やめているが、またやろうかな、と思い始めている。この小説のように出会いは作らなくて…

『フェミニズム』

NHK100分DE名著シリーズ 加藤陽子さんが『伊藤野枝集』を、鴻巣友季子さんが『侍女の物語』『誓願』を、上間陽子さんが『心的外傷の回復』を、そして上野千鶴子さんが『男同士の絆』を解説する形で論を展開している。数月前に番組を見ていたので、分かりやす…

『砂の女』

安倍公房 新潮文庫 カフカのような、なにかアレゴリーな世界を描いているのかと思っていたが、もっとリアリティのある小説だった。自分にも起こり得る世界。 そうやって読むと、非常に恐ろしい。怖い小説だった。

『52ヘルツのクジラたち』

町田そのこ 中央公論新社 本屋大賞にも選ばれた小説。虐待された当事者たちの話だが、それだけではない少数者の連帯の話でもある。 裏切られない、いい本だった。

『木になった亜紗』

今村夏子 文春文庫 まあ、ありえない世界に引きづっていく小説ではある。主人公の女性の手から食べようとしない家族や金魚。木に転生して割り箸になる物語。また、他者とのつながりを希求して不思議な世界が広がったり。

『僕はかぐや姫/至高聖所』

松村栄子 ポプラ文庫 女子高の文芸部員が自分のことを僕と呼ぶ。先に読んだ「女ことば」で紹介されていたので読んでみた。至高の方は大学生の物語。芥川賞を受賞している。女子高生、女子大生の気持ちがよく表現できていると思う。

『女ことばってなんなのかしら?』

平野卿子 河出新書 翻訳家が日本の女言葉について書いた本。 たとえば女ヘンの漢字は多いが男ヘンの漢字は数えるほど。そのかわりに人ベンがある。また、言葉の背後に文化がある。 ひと言でいうと、日本のジェンダー平等は一筋ならではいかないな、と感じた。

『かっかどるどるどぅ』

若竹千佐子 河出書房新社 『おらおらでひとりでいくも』が面白かったので読んでみた。 「孤立して寄る辺なく生きるすべての人を強く励ます感動作」と帯にある。その通りで、むしろそれだけ、ともいえる。もっとひねりがほしい、というような欲が出る。現実に…

『水を縫う』

寺地はるな 集英社文庫 最後まで読まないとタイトルの意味が分からない。 テーマは家族、だろうか。 しかも、どうやらジェンダー問題も絡んでいそうだ。 しかしそれほどどぎつくなく、こまごまとしたことがよく書けている。 好みから言うと気にいった小説と…

『プリズンホテル4春』

浅田次郎 集英社文庫 プリズンホテル全4巻の最終巻。 主人公が文学賞を受賞するとか、そのなかでドタバタ。50年以上も刑務所に入っていた親分をめぐっての話も面白い。 相変わらず意外性のある登場人物がうまく絡んで楽しませてくれる。

『流浪の月』

凪良ゆう 東京創元社 8歳の女の子が見知らぬ大学生の男子宅で2か月暮らす。男性は小児性愛者である。それだけで、ネット上では一生烙印が押されてしまう。しかし小児性愛的な言動はなかった。しかししっかりと烙印は押されて、社会人となってからも周りの視…

『プリズンホテル3冬』

浅田次郎 集英社文庫 多少滑稽な筋立てだが、登場人物など笑えてそれなりにリアル感もある。 この巻は死がテーマだろう。登場人物がそれぞれ死に直面する。

『手から、手へ』『童子』『月下の一群』

池井昌樹 『手から、手へ』集英社 『童子』思潮社 『月下の一群』思潮社 いずれも詩集。『手から、手へ』。 昨日の朝日新聞、鷲田清一さんの「折々のことば」で紹介されていた文章がよかった。 こんな感じだ。 「やさしい子らよ おぼえておおき やさしさは …

『プリズンホテル2秋』

浅田次郎 集英社文庫 4巻ある内2冊目。プリズンホテルに警察の慰安旅行とヤクザの団体がやってくる。歌手も。ドタバタのストーリーが展開されるが、人間のやさしさとはなにか考えさせられる。1巻完結。

『プリズンホテル1夏』

浅田次郎 集英社文庫 先に読んだ『熱帯』に出てきたので読んでみた。 ヤクザの叔父が経営するホテル。任侠団体専用のホテルに不思議な人が集って起こす不思議な事件。さすがと思ったのは登場人物の性格や言動がしっかりかき分けられていること。

『熱帯』

森見登美彦 文春文庫 ある人の話から始まってその登場人物からまた話が広がり、そのうち、話されている本のなかに読者が入り込む。本は最後まで読まれることはない。 千一夜物語が底本になっているようだが、ストーリーで読もうとすると混乱する。 楽しく読…

『テラプト先生がいるから』

ロブ・ブイエー 静山社 小学5年生のクラスと担任の先生の話。 クラスの登場人物が多く、なかなか理解しにくいが、先生を中心に、クラスが徐々にまとまっていく。それは家族にも影響を与えていく。

『夜のピクニック』

恩田陸 新潮社 『蜜蜂と遠雷』がよかったので話題作となる同じ著者の本を読んでみた。 高校のイベントとして、朝から翌日の午前中まで全校生徒が歩く。歩きながら物語は進む、という『蜜蜂と遠雷』と同じ構造。

『真間の手児奈 入水の謎』

中津攸子 龍書房 講演集である。 タイトルのもの以外に「真間の継橋の謎」「狩野浄天」「市川の戊辰戦争」が収録されている。住んでいる地域の論考なので面白く読んだ。

『チョコレート工場の秘密』

ロアルド・ダール 評論社 恩田陸が子どもの頃に読んで感動したというので読んでみた。 アナーキーともいえる展開。すごいけれど、という感じかな。

『蜜蜂と遠雷』

恩田陸 幻冬舎 ピアノコンクールの話である。エントリー、第一次予選から第三次予選まで。そして本選。500ページがほぼ選考にあてられている。というより、演奏される曲や演奏そのものについて。 専門用語も出てくるし、クラシックを知らないとついていけな…

『北のはやり歌』

赤坂憲雄 筑摩書房 筑摩選書 実は前にも読んだような記憶がある。というのも、東北について書かれたものは好きだから。そしてはやり歌のことなら大歓迎。 戦後の流行歌のスタートと田舎と都会。とくに東北から東京に出ていく人、残される人の想いは歌として…

『トンネルの森』

角野栄子 角川書店 第二次世界大戦なかで暮らす少女が主人公。小4の女の子で、筆者の少女時代と思われる。母に先立たれ、他家で暮らす。疎開をしてからの新生活もリアルに描かれている。

『影踏み』

横山秀夫 祥伝社 死んだ人の面影を見るために、影を凝視して空を見る。そういうのが影踏みだった。 この小説は双子の弟の存在と共に盗みなどアウトローの働きをする。

『雲』

エリック・マコーマック 東京創元社 男性の生い立ちが語られる。 出張先のメキシコで、突然の雨を逃れて入った古書店。そこで見つけた1冊は、黒曜石雲という謎の雲にまつわる話。青春を過ごしたスコットランドでの話。 幻想小説、ミステリ、ゴシック小説的で…

『円周率を計算した男』

鳴海風 新人物往来社 江戸中期の和算の世界を描く6篇。歴史文学賞を受賞している。 しかし、話題として和算にとらわれた男たちの、どちらかというと恋愛模様を描いたもののようにしか感じられなかった。もう少し和算の世界を描いてほしかったように思う。

『愛についてのデッサンーー佐古啓介の旅』

野呂邦暢 みすず書房 野呂邦暢の本には初めて出合うが、気負ったところのない文章がいい。 まだ若い男が父親の古本屋を継いで、依頼された生原稿を手に入れてきたり、本や出会いに絡む物語。 野呂邦暢は早世したようである。 みすず書房の「大人の本棚」の1…

『ニキ』

夏木志朋 ポプラ社 ポプラ社の小説新人賞を受賞している。 少数者の葛藤を描いたと言えばいいか。 しかし、少数者は意外に多数。だから簡単に排除はできない、ということ。 担任の先生の少数者としての性癖を通して主人公の性癖に気づいていく。 和解として…

『雪の断章』

佐々木丸美 創元推理文庫 初めて読むが、以前読んだような気もする。しかし楽しめて読むことができた。 孤児の文学というべきか、少女が青年と会って、その友人も含めた交流が描かれる。殺人事件が起き、誰がどうしてそうした事件を起こしたのか、少女の心情…

『ふたり、この夜と息をして』

北原一 ポプラ文庫 高校2年生の同級生たちの交流。 顔にアザのある少年が主人公。 登場主人公に悪い人が出てこない。 心優しい友人たちだけの、しかし悩みをもつ者の交流だったりする。