木ノ内博道の雑読ノート

読んだ本の備忘録です。

『折鶴』

泡坂妻夫 創元社文庫 短編集で4篇が納められている。4篇で泉鏡花文学賞を受賞している。 とくに「折鶴」がよかった。 それぞれ職人の世界を書いているが、「折鶴」は悉皆屋の職人。和服の洗い張りの世界で、古い時代を彷彿とさせる。そこにミステリー的な要…

『蔭桔梗』

泡坂妻夫 創元推理文庫 彼の小説は『湖底のまつり』を読んだことがある。印象深かった。 『蔭桔梗』にはこれを入れて11の短編が納められている。 全体に職人が登場する。とくに紋章上絵師の登場するものが多い。着物に関する話題が多く、そういう意味で味わ…

『神様のカルテ3』

夏川草介 小学館 夏川草介にはまっている感じだ。 読みやすいし、内容もよく入ってくる。 今回は医者としての診断間違いがテーマ。

『冬瓜』

村尾文 西田書店 短編集第一巻とある。 6つの短編が納められている。 最初の「冬瓜」が本のタイトルにもなっている。船橋市文学賞を受賞しているから、船橋市に在住の方かもしれない。「冬瓜」は鹿島あたりの疎開地のことを書いている。この地の風習となっ…

『近代小説<異界>読む』

東郷克美 高橋広満 双文社出版 不思議な味の短編を集めた本である。短編ごとに書いていきたい。 泉鏡花「龍潭譚」古文体の少し読みづらい文章である。幼い子どもが道に迷い、自分の精神にも迷っていく。早くに亡くなった母を追い求め、姉に求める。多くの泉…

『神様のカルテ2』

夏川草介 小学館 1が面白かったので読んだ。 後半、死にまつわる話が多かったが、しっかり納得できる内容だった。 病気に関する知識が書けているので、嘘らしさや危うさがない。将棋の話も出てくるが、こちらも嘘らしさがない。 病院なだけに死は大きな話題…

『木挽町のあだ討ち』

永井紗耶子 新潮社 面白かった。これから読む人のために内容をばらすのは控えるが、あるあだ討ちを巡って関係者へのヒアリングが行われる。ヒアリングというよりも、関係者が、自分の生きざまを話す。そのうえで、最終的に落ちがあるのだが、いい話なのであ…

『神様のカルテ』

夏川草介 小学館 まずはよい小説だったと言いたい。 『始まりの木』がよかったので、夏川氏の本を読むのは2冊目。 医者が、病院のこと、暮らしのことを話していくストーリー。 それにしても激務。 しかし、患者との交流がいい。 2巻目も読んでみたいと思った…

『猫を抱いて象と泳ぐ』

小川洋子 文芸春秋 チェスの話である。 盤の下にうずくまってチェスを打つ青年。 互いにいかに強いのかを争うものだと思っていたが、チェスを通してコミュニケーションを行う。相手の性格も理解できる。読みながら、いい時間をもったように思う。

『始まりの木』

夏川草介 小学館文庫 民俗学のフィールドワークを通しての指導教官と学ぶ女性との交流。日本人の失ったものを学ぶ。 私の個人的な感想でいえば、第五話に影響を受けた。これまで死後は骨を海に流してほしいと思ってきたが、なにも宗教を捨てなくてもいいんだ…

『「発達障害」と間違われる子どもたち』

成田奈緒子 青春新書 発達障害の子どもが増えているように感じるが、著者は「発達障害もどき」が増えているのだという。大事なのは子どもの生活パターンを早寝早起きに変えることだという。 養育者もそうすることで、子どもとの信頼ができると。 とくに難し…

『百年の子』

古内一絵 小学館 子どもについての話かと思ったら、どうやら小学館の学年誌を中心とした100年史だった。戦中戦後の学年誌について、フィクションとして描いている。 読みやすくて、内容が頭に入ってくる。こうした書き方もあるんだな、と参考にはなった。

『霜月記』

砂原浩太郎 講談社 このところ時代ものにはまっている。 本書は神山藩シリーズの3作目。 親子3代の物語。祖父は引退して柳町で悠々自適。父は町奉行だったが突然辞めて行方不明。子どもがそれを継ぐ。それぞれ父と子の物語である。 砂原さんの小説は登場人物…

『黛家の兄弟』

砂原浩太郎 講談社 『高瀬庄左衛門尾御留書』がよかったので、その神山藩シリーズの2冊目を読んでみた。黛家の3兄弟の話だが、長期にわたる藩の内情も含めたストーリー。 大きく2部から構成されている。後半ぎりぎりになってから解決の糸口が明かされて、な…

『銀漢の賦』

葉室麟 文春文庫 時代小説はあまり読む方ではないが、続けて2冊読んでしまった。 藤沢周平の正当な後継者と表紙にある。先に読んだ『高瀬庄左衛門御留書』の砂原浩太郎は葉室麟の時代小説の後継者ではないかと思っていたから、読む気になった。 3人の幼馴染…

『高瀬庄左衛門御留書』

砂原浩太郎 講談社時代小説文庫 江戸時代のある藩で郡方をする男50歳の物語。妻に先立たれ、息子も事故で亡くす。残された息子の妻と手慰みに絵をかきながら暮らすが、藩の政争に巻き込まれていく。しかし、自分の生き方を堅持していく姿が美しいと言える。 …

『金木犀とメテオラ』

安檀美緒 集英社文庫 『ラブカは静かに弓を持つ』を読んで、同じ著者の本を読んでみたくなった。 この本は、北海道に新設された中高一貫校に進学した生徒たちの話。 とくに主人公二人は東大入学も可能な学力。 ピアノの趣味、絵画の趣味、学校のイベント。成…

『春の窓 安房直子ファンタジー』

安房直子 講談社文庫 安房さんの書いたものを初めて読んだが、多くのファンタジーを書いている。 この本にも「春の窓」など12編が納められている。なんと言うことはない、こまごまのファンタジーである。動物なども登場するが人の言葉を話す。 こういう書き…

『ラブカは静かに弓を持つ』

安檀美緒 集英社 上司の命令で音楽教室に潜入調査。チェロの講師との出会い。生徒仲間との交流。 信頼がテーマかなと思ってしまう。 私も尺八を習って、かれこれ10数年やめているが、またやろうかな、と思い始めている。この小説のように出会いは作らなくて…

『フェミニズム』

NHK100分DE名著シリーズ 加藤陽子さんが『伊藤野枝集』を、鴻巣友季子さんが『侍女の物語』『誓願』を、上間陽子さんが『心的外傷の回復』を、そして上野千鶴子さんが『男同士の絆』を解説する形で論を展開している。数月前に番組を見ていたので、分かりやす…

『砂の女』

安倍公房 新潮文庫 カフカのような、なにかアレゴリーな世界を描いているのかと思っていたが、もっとリアリティのある小説だった。自分にも起こり得る世界。 そうやって読むと、非常に恐ろしい。怖い小説だった。

『52ヘルツのクジラたち』

町田そのこ 中央公論新社 本屋大賞にも選ばれた小説。虐待された当事者たちの話だが、それだけではない少数者の連帯の話でもある。 裏切られない、いい本だった。

『木になった亜紗』

今村夏子 文春文庫 まあ、ありえない世界に引きづっていく小説ではある。主人公の女性の手から食べようとしない家族や金魚。木に転生して割り箸になる物語。また、他者とのつながりを希求して不思議な世界が広がったり。

『僕はかぐや姫/至高聖所』

松村栄子 ポプラ文庫 女子高の文芸部員が自分のことを僕と呼ぶ。先に読んだ「女ことば」で紹介されていたので読んでみた。至高の方は大学生の物語。芥川賞を受賞している。女子高生、女子大生の気持ちがよく表現できていると思う。

『女ことばってなんなのかしら?』

平野卿子 河出新書 翻訳家が日本の女言葉について書いた本。 たとえば女ヘンの漢字は多いが男ヘンの漢字は数えるほど。そのかわりに人ベンがある。また、言葉の背後に文化がある。 ひと言でいうと、日本のジェンダー平等は一筋ならではいかないな、と感じた。

『かっかどるどるどぅ』

若竹千佐子 河出書房新社 『おらおらでひとりでいくも』が面白かったので読んでみた。 「孤立して寄る辺なく生きるすべての人を強く励ます感動作」と帯にある。その通りで、むしろそれだけ、ともいえる。もっとひねりがほしい、というような欲が出る。現実に…

『水を縫う』

寺地はるな 集英社文庫 最後まで読まないとタイトルの意味が分からない。 テーマは家族、だろうか。 しかも、どうやらジェンダー問題も絡んでいそうだ。 しかしそれほどどぎつくなく、こまごまとしたことがよく書けている。 好みから言うと気にいった小説と…

『プリズンホテル4春』

浅田次郎 集英社文庫 プリズンホテル全4巻の最終巻。 主人公が文学賞を受賞するとか、そのなかでドタバタ。50年以上も刑務所に入っていた親分をめぐっての話も面白い。 相変わらず意外性のある登場人物がうまく絡んで楽しませてくれる。

『流浪の月』

凪良ゆう 東京創元社 8歳の女の子が見知らぬ大学生の男子宅で2か月暮らす。男性は小児性愛者である。それだけで、ネット上では一生烙印が押されてしまう。しかし小児性愛的な言動はなかった。しかししっかりと烙印は押されて、社会人となってからも周りの視…

『プリズンホテル3冬』

浅田次郎 集英社文庫 多少滑稽な筋立てだが、登場人物など笑えてそれなりにリアル感もある。 この巻は死がテーマだろう。登場人物がそれぞれ死に直面する。